SVマトリックスでRE102とRS103をつなぐ ― 船舶におけるEMC分析
はじめに
電磁両立性(EMC)のテストは、単にラボで規格に合格することだけではありません。艦船や商船のように限られた空間に多数の通信機器、レーダー、航法システムが搭載されている環境では、システム同士が干渉せずに共存できるかが重要になります。
MIL-STD-461Gには、特に関連する2つの試験があります:
- RE102(放射エミッション): 装置がどれだけ電磁波を放射するかを測定する試験。
- RS103(放射イミュニティ): 装置が外部からの電磁波にどれだけ耐えられるかを確認する試験。
個々に見ると有用ですが、両者を組み合わせることで初めて「このシステムは船上で共存できるか?」という問いに答えることができます。そこで活躍するのが Source–Victim(SV)マトリックス です。
RE102とRS103の基礎
- RE102: 周波数を掃引し、装置が放射する**電界強度(V/mまたはdBµV/m)**を測定。
- RS103: 規定された電界強度を印加し、装置がその環境下でも動作できるかを確認。
これらを組み合わせることで、システム間の電磁的な相互影響を定量的に把握できます。
SVマトリックスの考え方
SVマトリックスは、すべての**発信源(Source)と被害対象(Victim)**の組み合わせを比較します。
- Source(発信源): SATCOM、VHF無線、レーダーなど。
- Victim(被害対象): GPS、NAVTEX、航法レーダーなど。
- 距離: 実際の配置間隔。
- RE102エミッション(1mでの測定値)
- Victim位置でのエミッション: 距離や結合を考慮した予測値。
- RS103イミュニティ: 被害対象が耐えるべき基準値。
- マージン(dB):
Margin = RS103 - Emission\_{victim位置} - 合否判定: マージンがプラスなら安全、マイナスなら干渉リスクあり。
船上データの例
あるデータセット(338ペア)から抜粋すると:
- 自己干渉(INMARSAT-C → INMARSAT-C)
- Victim位置でのエミッション ≈ 13.8 MV/m (262 dBµV/m)
- RS103基準 = 50 V/m (154 dBµV/m)
- マージン = –109 dB → FAIL
- 現実的には数値が大きすぎますが、「自己干渉」のリスクを示唆。
- INMARSAT-C → NAVTEX
- Victim位置でのエミッション ≈ 0.87 V/m (119 dBµV/m)
- RS103基準 = 50 V/m (154 dBµV/m)
- マージン = +35 dB → PASS
- NAVTEXはINMARSATからの放射に十分耐えられる。
ワークフロー(テキスト図解)
Source Device (送信機) --> RE102 Emission (1m)
|
v
距離/遮蔽/結合を考慮した伝搬
|
v
Victim位置での電界強度 (E_at_v, V/m & dBµV/m)
|
+--> RS103基準値と比較
|
v
Margin = RS103 - E_at_v
|
+---------+----------+
| |
PASS (安全) FAIL (干渉リスク)
| |
SVマトリックスに記録 対策(フィルタ、遮蔽、配置変更)
なぜ重要か
- システム全体の視点: 単独試験では見えない干渉関係が分かる。
- 設計指針: 配置、シールド、フィルタリングの判断が容易に。
- 事前警告: 導入前にリスクを把握できる。
- 任務の信頼性: 船舶のように密集した環境では必須の手法。
SVマトリックス例(テキスト表)
| Source: VHF | Source: SATCOM | Source: Radar
---------------+----------------+-----------------+----------------
Victim: GPS | +28 dB PASS | +12 dB PASS | -6 dB FAIL
Victim: NAVTEX | +35 dB PASS | +18 dB PASS | +9 dB WARN
Victim: Radar | +42 dB PASS | -3 dB FAIL | +5 dB WARN
- マージンがプラス → PASS(安全)
- 小さなプラス → WARN(注意)
- マイナス → FAIL(リスクあり)
まとめ
SVマトリックスは RE102(放射エミッション) と RS103(放射イミュニティ) をつなぐ架け橋です。単なる試験合否から一歩進み、船舶全体の電磁環境における互換性マップを得ることができます。
このアプローチは、船舶のような複雑かつ高密度の環境で、EMC分析を形式的なものから実践的な設計ツールへと進化させ、任務遂行の信頼性を高めます。
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