GPU vs LPU vs TPU:AIアクセラレータの正しい選び方
本記事は GPU・LPU・TPU の違いを、単なる性能比較ではなく、実運用システム設計(System Architecture) の観点から解説します。
日本の企業・工場・IT部門に多い 高い信頼性要求、長期運用、慎重な投資判断 を前提に構成しています。
AIが PoC(検証)段階から 24/7 の本番運用 に移行する際、必ず出てくる質問があります。
「GPU・LPU・TPU、どれを選ぶべきか?」
結論から言うと、万能なチップは存在しません。正しい選択は次の条件に依存します。
- 学習(Training)か 推論(Inference)か
- レイテンシ要求はどの程度か
- 既存システム(ERP / MES / Web / コールセンター等)との統合
本記事では 過度なマーケティング表現を排し、実務目線 で解説します。
1. GPU(Graphics Processing Unit)
日本企業でAI導入を開始する場合、最も現実的な第一選択肢
GPUは何のために設計されたか
GPUは元々グラフィックス処理向けに設計されましたが、現在では 汎用並列計算基盤 としてAI分野の中心的存在です。
GPUの強み
- AIモデルの 学習(Training) に最適
- PyTorch / TensorFlow など成熟したエコシステム
- 画像認識、LLM、音声、シミュレーションまで幅広く対応
- PoCから本番まで段階的に拡張可能
GPUの注意点
- 消費電力が高い
- 推論専用用途ではコスト過剰になる場合あり
- 24時間稼働では運用設計が重要
日本での代表的な利用例
- 製造業における 外観検査(Computer Vision / QC)
- 研究開発部門・大学
- 複数AIユースケースを並行検証するIT部門
- 要件が固まっていないAIプロジェクト
イメージ例:
GPUは「設備が揃った汎用工場」。柔軟だが、稼働コスト管理が重要。
2. LPU(Language Processing Unit)
低レイテンシが最優先の日本向けAIサービスに適合
LPUは何のために設計されたか
LPUは 言語モデル(LLM)の高速推論 に特化したアクセラレータです。
LPUの強み
- 極めて低いレイテンシ
- 実行時間が予測可能(deterministic)
- 大量同時リクエストに強い
- リアルタイム応答が必要な業務に最適
LPUの制約
- 学習用途には不向き
- 柔軟性はGPUより低い
- 事前に用途が明確である必要あり
日本での代表的な利用例
- 日本語チャットボット(金融・保険・EC)
- コールセンターAI
- 社内業務支援AI(FAQ / 文書検索)
- 即時応答が求められる顧客対応
イメージ例:
LPUは「専用ラインの高速機」。特定用途では圧倒的に強い。
3. TPU(Tensor Processing Unit)
Google Cloud中心の日本企業・スタートアップ向け
TPUは何のために設計されたか
TPUは大規模 テンソル演算 を前提としたクラウド特化型AIアクセラレータです。
TPUの強み
- 大規模学習で高いコスト効率
- クラウド前提のスケールに強い
- バッチ型ML処理に最適
TPUの注意点
- 主にGoogle Cloud限定
- カスタマイズ性が低い
- ベンダーロックインの検討が必要
日本での代表的な利用例
- AI SaaSを展開する日本のスタートアップ
- 大規模データ分析(バッチ処理)
- クラウド前提で割り切った設計
イメージ例:
TPUは「クラウド専用の大規模工場」。効率的だが場所は限定的。
4. 簡易比較表
| 項目 | GPU | LPU | TPU |
|---|---|---|---|
| 学習(Training) | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ❌ | ⭐⭐⭐⭐ |
| 推論レイテンシ | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐ |
| 柔軟性 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ |
| 電力効率 | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐⭐ |
| エコシステム | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ |
| 主用途 | 汎用AI | リアルタイムAI | クラウドML |
5. 選定フロー(System First)
flowchart TD
A["AIの用途を定義"] --> B["モデル学習が必要か?"]
B -->|"はい"| C["クラウド前提・大規模か?"]
C -->|"はい"| T1["TPU"]
C -->|"いいえ"| G1["GPU"]
B -->|"いいえ(推論)"| D["リアルタイム性が必須か?"]
D -->|"はい"| E["日本語LLM等、用途が固定か?"]
E -->|"はい"| L1["LPU"]
E -->|"いいえ"| G2["GPU"]
D -->|"いいえ"| F["バッチ・非同期処理か?"]
F -->|"はい"| G3["GPU"]
F -->|"いいえ"| H["クラウド依存か?"]
H -->|"はい"| T2["TPU"]
H -->|"いいえ"| G4["GPU"]
G1 --> Z["統合設計:レイテンシ・冗長化・監視"]
G2 --> Z
G3 --> Z
G4 --> Z
L1 --> Z
T1 --> Z
T2 --> Z
6. よく採用される構成例
[ ユーザー / センサー ]
↓
[ GPU 学習 ]
↓
[ モデル配布 ]
↓
[ LPU 推論 ]
↓
[ 業務システム / ERP / MES ]
- GPUで柔軟に学習
- LPUで安定した低遅延推論
- 日本企業に求められる 長期安定運用 に適合
7. 日本企業でよくある失敗
「どのGPUを買うべきか?」から検討を始める
本来あるべき順序は逆です。
❌ ハードウェア先行
✅ 業務フローと判断速度の設計が先
AIアクセラレータは 戦略ではなく基盤 です。
まとめ
GPU・LPU・TPUは競合ではなく 役割分担 です。
- 即時応答が重要 → LPU
- 学習・改善を重視 → GPU
- クラウド大規模処理 → TPU
最適解は一択ではなく、システム全体設計 から導かれます。
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