検索とアクセスを最初に改善する 大学図書館の戦略的価値を最短で回復する方法

はじめに

日本の大学では、
LMS、研究情報基盤、AI 活用、クラウド移行など、
さまざまなデジタル投資が進められています。

しかし、その一方で、教育・研究の基盤であるはずの
大学図書館のデジタル利用体験が、静かに課題を抱えています。

問題は、

  • 資料が不足していることでも
  • 図書館員の専門性が足りないことでもありません

本質的な課題は、次の一点です。

学生・研究者が「探せない」「開けない」

AI や新規データベースを導入する前に、
成果を上げている大学が共通して行っていることがあります。

検索(Discovery)とアクセス(Access)を最優先で改善することです。


見えにくい課題:資料はあるが、信頼がない

多くの大学はすでに、

  • 学術ジャーナル
  • 電子書籍
  • 学位論文
  • 機関リポジトリ

といった豊富な資源を保有しています。

それでも利用者の声はこうです。

  • 「探しにくい」
  • 「リンクはあるが本文にたどり着けない」
  • 「Google の方が早い」

これは利用者教育の問題ではありません。
システム設計の問題です。

一度でも失敗すると、
利用者は図書館を使わなくなります。
その結果、図書館は意思決定の場から遠ざかっていきます。


「Discovery & Access」とは何か(経営層の視点)

Discovery(検索)
すべての学術資源を一か所から検索でき、
結果が分かりやすく、関連性が高いか。

Access(アクセス)
学内・学外を問わず、
認証の混乱なく、すぐに全文を読めるか。

どちらか一方でも欠けると、利用率は大きく下がります。


なぜ経営課題なのか

1)利用率はコスト説明責任に直結する

利用されない資源は、

  • 契約更新の正当性が説明しにくい
  • 予算削減の対象になりやすい
  • 図書館の存在意義が見えにくくなる

という問題につながります。


2)検索体験は AI・検索エンジンと比較されている

学生は無意識に、

  • Google
  • ChatGPT
  • 論文検索 AI

と比較しています。

図書館の検索が遅い・複雑であれば、
選ばれなくなるのは自然な結果です。


3)Discovery & Access 改善は最も費用対効果が高い

新規データベース導入や AI 実証よりも、

  • 投資額が小さく
  • 効果が早く
  • 既存資産の価値を高める

それが検索とアクセスの改善です。


先進大学が最初に取り組むこと

1)検索窓を一つにする

利用者に、

  • OPAC
  • データベース
  • リポジトリ

を意識させない設計が重要です。

統合検索(Discovery Layer)により、
「どこで探すか」を考えさせない環境を作ります。


2)学外アクセスを意識させない

利用者は、

  • EZproxy
  • VPN
  • 契約条件

を理解したいわけではありません。

理想は、

  • 学認/SSO による統一認証
  • 自動的な学外アクセス
  • 「全文あり/なし」が一目で分かる表示

3)図書館を LMS の中に組み込む

図書館は「別サイト」ではなく、

  • Moodle
  • Canvas
  • 授業ページ
  • シラバス・リーディングリスト

の中に自然に存在するべきです。

これにより、広報なしでも利用率は向上します。


これは「大規模刷新」ではない

Discovery & Access の改善は、

  • ILS 全面入れ替え
  • AI チャットボット導入
  • 大規模移行

を意味しません。

多くの場合、
既存システムの上に重ねる改善で十分な成果が出ます。


進め方(協働ワークフロー)

flowchart TD
  A["1) 経営層の合意形成(30–60分)"] --> B["2) 検索・アクセス課題の簡易診断"]
  B --> C["3) 成功指標(KPI)の設定"]
  C --> D["4) 目標アーキテクチャと連携設計"]
  D --> E["5) 限定的なパイロット実施"]
  E --> F["6) 検索精度・認証・学外アクセス改善"]
  F --> G["7) LMS 連携・全学展開・周知"]
  G --> H["8) 効果測定と継続的改善"]

  B --> B1["入力:既存システム一覧、認証フロー、検索事例"]
  F --> F1["成果:アクセス失敗削減、全文利用増加"]
  H --> H1["成果:意思決定用ダッシュボード"]

期待される成果(1 年以内)

  • 全文アクセス率の向上
  • 問い合わせ・トラブルの減少
  • 学外利用の増加
  • 契約更新時の説明材料が明確に
  • 図書館の戦略的存在感の回復

重要な原則

アクセスを直さずに高度化しない
検索を直さずに資源を増やさない

基盤が整ってこそ、

  • AI 活用
  • 分析
  • 研究力可視化

が意味を持ちます。


おわりに(大学経営層の方へ)

これからの大学図書館は、
「どれだけ資料を持っているか」ではなく、

  • どれだけスムーズに知識が流れるか
  • 学習・研究に自然に組み込まれているか
  • 投資価値を説明できるか

で評価されます。

検索とアクセスの改善は、
単なる IT 改修ではなく、戦略判断です。

そして、最も速く成果が見える一手でもあります。


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