RPA × AI: なぜ「自動化」は知能なしでは破綻し、 知能は制御なしでは信頼されないのか
はじめに
RPA(Robotic Process Automation)は、
人の操作を模倣することで業務を高速化する技術として普及しました。
一方、AI(人工知能)は、
文書理解や判断支援を通じて業務を高度化する存在として期待されています。
しかし、多くの企業が実感し始めているのは、次の現実です。
RPA だけでは壊れやすい
AI だけでは責任を持てない
そして両者は、統制なしでは成立しない
本記事では、日本企業の業務特性(稟議・監査・既存システム)を前提に、
RPA × AI を現実的に成立させる考え方とアーキテクチャを解説します。
RPA が得意なこと、苦手なこと
RPA が得意なのは以下のような業務です。
- 画面入力
- データ転記
- ファイルアップロード
- 定型処理の繰り返し
しかし、RPA には構造的な限界があります。
RPA は「理解」しない
決められた操作を実行するだけ
以下が増えるほど、RPA は不安定になります。
- 文書フォーマットのばらつき
- 例外処理
- 人的判断
- UI の変更
これはツールの問題ではなく、設計の問題です。
AI だけに任せると何が起きるか
AI は以下が得意です。
- 非構造文書の読解
- 情報抽出
- 分類・リスク検知
- 判断の「補助」
しかし、AI の本質は 確率的 です。
AI は「提案」するが「決裁」はしない
AI は「理由」を出すが「責任」は持たない
監査・説明責任が求められる日本企業では、
AI 単独での自動実行は現実的ではありません。
本質的な整理:RPA と AI は役割が違う
失敗しやすい考え方は以下です。
- RPA に判断させる
- AI に実行させる
持続可能な整理はこうなります。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| AI | 読む・分析する・提案する |
| ルール | ポリシーを強制する |
| 人 | 承認・決裁・責任を持つ |
| RPA | 操作を実行する |
| Workflow | 全体を制御・記録 |
要約すると、
AI が考え
人が決め
RPA が動き
Workflow が全てを管理する
実務で使える RPA × AI アーキテクチャ(APIなし前提)
日本企業では、API を持たない Web システムが多く残っています。
以下は、その前提で成立する構成例です。
flowchart TD
U["業務担当者(経理 / 調達 / 物流 / 法務)"] --> P["受付ポータル"]
P --> S["文書保管(MinIO)"]
P --> W["Workflowエンジン(Camunda BPMN/DMN)"]
W --> O["OCR(Tesseract:日/英/泰)"]
O --> A["AI分析(Private LLM)"]
A --> R["ルール / ポリシー(DMN)"]
R -->|低リスク| X["自動実行リクエスト"]
R -->|例外| H["人による承認(稟議)"]
H -->|承認| X
H -->|否認| E["停止・理由記録"]
X --> B["RPA Bot(Robot Framework)"]
B --> G["既存Webシステム(APIなし)"]
W --> D["業務DB(PostgreSQL)"]
W --> L["監査ログ(ELK)"]
B --> L
この構成の重要原則
- AI は 取引を実行しない
- RPA は 判断しない
- 承認は必ず人が行う
- 全操作が監査可能
この分離が、日本企業で受け入れられる条件です。
なぜ「Workflow」が最重要なのか
多くの失敗事例では、
- RPA はある
- AI もある
- しかし「統制」がない
結果として、
- 誰が承認したか分からない
- 例外処理が属人化
- 監査で説明できない
Workflow は以下を担保します。
- 稟議フロー
- ルールの明文化
- 状態管理
- 履歴保存
ボットより先に Workflow を設計することが重要です。
RPA × AI は「業務改善装置」でもある
自動化を設計する過程で、企業は必ず次に直面します。
- 判断基準が曖昧
- 承認が多すぎる
- 部門ごとにルールが違う
結果として、
- 無駄な工程が見える
- 業務が標準化される
- 説明可能性が向上する
これは単なる効率化ではなく、業務品質の向上です。
向いている業務・向かない業務
向いている
- 契約・請求書・貿易書類
- 多言語文書
- 定型+例外あり
- 既存Webシステム中心
- 監査必須業務
向かない
- 戦略判断
- 創造的業務
- ルールが頻繁に変わる作業
目的は「自動化率」ではなく、安定運用です。
成功指標(KPI)の考え方
よくある指標ではなく、
- 例外率は下がったか
- 監査対応は楽になったか
- 人が安心して任せられるか
日本企業における最大の KPI は「信頼」
おわりに
RPA × AI は、人を排除する技術ではありません。
- 機械は繰り返しを担い
- AI は判断材料を提示し
- 人が責任を持つ
良い自動化とは
人の責任が、より明確になる仕組みである
Get in Touch with us
Related Posts
- 国境紛争・代理戦争をどうシミュレーションするか
- 検索とアクセスを最初に改善する 大学図書館の戦略的価値を最短で回復する方法
- 工場とリサイクル事業者をつなぐ、新しいスクラップ取引プラットフォームを開発しています
- Python で MES(製造実行システム)を開発する方法 ― 日本の製造現場に適した実践ガイド ―
- MES・ERP・SCADA の違いとは? ― 製造業における役割と境界を分かりやすく解説
- なぜソフトウェア開発の学習はこんなにも「つらい」のか ― そして、その解決方法
- 企業はどちらを選ぶのか:GPT型AIか、Gemini型AIか
- GPT-5.2 が GPT-5.1 より真価を発揮する実務ユースケース
- ChatGPT 5.2 と 5.1 の違い ― たとえ話でわかりやすく解説
- なぜ成長する企業は 既製ソフトウェアでは限界を迎えるのか ― 成功している企業が選ぶ次の一手 ―
- コンピュータビジョンのエッジ化と低リソース環境:日本企業における課題と新たな機会*
- Simplico — 企業向けAIオートメーション & カスタムソフトウェア開発(日本市場向け)
- AIによる予知保全 ― センサーから予測モデルまでの全体像
- 会計業務におけるAIアシスタント ― できること・できないこと
- なぜ中小企業はERPカスタマイズに過剰なコストを支払ってしまうのか — そしてその防ぎ方
- なぜ SimpliShop を開発したのか —— 日本の中小企業の成長を支えるための新しい EC プラットフォーム
- ファインチューニング vs プロンプトエンジニアリングを徹底解説 ― 日本企業がAIを活用するための実践ガイド ―
- 精密灌漑(Precision Irrigation)入門
- IoTセンサーよりも重要なのは「データ統合」―― スマート農業が本当に抱える課題とは
- モバイルアプリ開発提案書(React / React Native)













