Temporal × ローカルLLM × Robot Framework 日本企業向け「止まらない・壊れない」業務自動化アーキテクチャ
日本企業で業務自動化を進めると、次のような課題に必ず直面します。
- 請求書処理が途中で止まり、再実行が怖い
- 承認フローが長く、システムがその間に壊れる
- SAP / ERP が古く、APIが使えない
- AIを使いたいが、誤動作・誤判断が許されない
- 内部監査(監査対応・証跡)が必須
これらは AIの性能不足ではありません。
多くの場合、問題は ワークフロー基盤の設計 にあります。
本記事では、日本企業に適した 実運用向けアーキテクチャ を紹介します。
- Temporal:耐障害・長時間実行に強いワークフロー基盤
- ローカルLLM(Ollama 等):社内完結のAI理解エンジン
- Robot Framework:APIのないSAP/ERPのUI自動化
日本企業の業務自動化が難しい理由
日本の業務システムには、次の特徴があります。
- SAP GUI / レガシーERPが現役
- 承認はメール・社内ワークフローが中心
- 業務は「途中で止まり」「後日再開」される
- 監査・証跡・再現性が重要
一般的な自動化手法(スクリプト、RPA単体、低コードツール)は、
- 数日後の再開
- 人の介入
- 再実行の安全性
を前提に設計されていません。
設計の原則:役割を分離する
信頼できるシステムの共通点は、責務の分離です。
| レイヤー | 役割 |
|---|---|
| Temporal | 業務フロー制御・状態管理・再実行保証 |
| ローカルLLM | 文書理解・分類・情報抽出 |
| Robot Framework | SAP/ERP画面操作 |
AIは「判断を補助」する存在であり、
最終判断は決定論的なシステムが行うべきです。
全体アーキテクチャ(概念図)
メール / API / スケジュール
|
v
Temporal Workflow(業務の真実)
|
+--> ローカルLLM
| - メール/請求書解析
| - 種別判定
| - 信頼度算出
|
+--> ゲート(業務ルール)
|
+--> Robot Framework
| - SAP / ERP UI操作
|
+--> 人の承認(Signal)
Temporalが 業務状態の唯一の正解 になります。
なぜ Temporal なのか(日本企業向け視点)
Temporalは次を保証します。
- システム再起動後も業務が継続
- デプロイ後も状態を保持
- 再実行しても二重処理しない
- 全ステップの履歴を保持(監査対応)
これは日本企業で重視される
「再現性」「説明責任」「安定運用」 と非常に相性が良いです。
ローカルLLMを使う理由(日本市場では重要)
日本では以下が特に重視されます。
- 社外にデータを出さない
- 契約書・請求書の情報管理
- セキュリティ・コンプライアンス
Ollama等のローカルLLMを使うことで、
- 社内ネットワーク完結
- モデル選択の自由
- コスト制御
が可能になります。
LLMは次の情報を返します。
{
"workflow_key": "invoice.receive",
"confidence": 0.86,
"extracted_fields": {
"invoice_no": "INV-2025-001",
"amount": 125000,
"vendor": "ABC SUPPLY"
}
}
ゲート設計:日本企業で必須の安全装置
Temporalでは以下のような業務ゲートを自然に実装できます。
- 信頼度 < 0.8 → 人が確認
- 金額が一定以上 → 管理職承認
- 必須項目不足 → 差戻し
AIが「自動で暴走する」ことはありません。
Robot Framework:APIがなくても止まらない
SAP GUIや古いWebシステムでは、
UI自動化が唯一の現実解である場合が多いです。
Robot Frameworkは:
- テスト資産として再利用可能
- スクリーンショット・ログ完備
- Temporalと連携しやすい
Robotが失敗しても、Temporalが状態を保持します。
ユースケース:請求書メール処理
- 取引先から請求書メール
- Temporalワークフロー開始
- LLMが分類・抽出
- ゲート通過
- RobotがSAP入力
- 伝票番号取得
- 完了(全履歴保存)
人の介入があっても、途中から安全に再開できます。
どんな企業に向いているか
非常に向いている
- 製造業
- 経理・購買部門
- SAP/ERP利用企業
- 監査・内部統制が厳しい組織
向いていない
- 簡易的な自動化
- チャットボットのみ
- 一時的スクリプト
まとめ
日本企業の業務自動化で重要なのは
速さよりも「止まらないこと」「壊れないこと」
- Temporal:業務の骨格
- ローカルLLM:理解の補助
- Robot Framework:現場対応力
この組み合わせは、日本の業務文化と非常に相性が良いアーキテクチャです。
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