なぜ政府におけるレガシーシステム刷新は失敗するのか(そして、実際に機能する方法とは)

日本の中央省庁や地方自治体には、数十年前に構築された基幹システムが今なお社会インフラとして稼働しているケースが少なくありません。これらのシステムは、現代的なデジタル体験には適合していないものの、日々の行政サービスを確実に支え続けています。

しかし課題が顕在化すると、しばしば次のような発想に行き着きます。

「古いシステムをすべて新しく作り直そう」

一見合理的に見えるこの判断が、日本の政府ITプロジェクトでは高い確率で失敗します。その理由を理解することが、より良い解決策への第一歩です。


なぜ政府はレガシーシステムを置き換えようとするのか

全面刷新が魅力的に見える理由は明確です。

  • 保守・運用が困難になっている
  • ベンダーサポートの終了
  • 技術者の高齢化・人材不足
  • 国民からのデジタル化要求の高まり

民間企業であれば、大きな痛みを伴いながらも刷新が成立する場合があります。しかし日本の行政においては、同じアプローチが予算超過、監査リスク、長期遅延、あるいは「静かに止まるプロジェクト」を生みがちです。


日本の政府において刷新が失敗する理由

1. レガシーシステムは法制度に支えられた社会インフラである

多くの行政システムは:

  • 24時間365日の安定稼働が求められる
  • 法令・省令・条例に基づく業務を支えている
  • 停止や大幅変更が想定されていない

短時間の停止であっても、国民生活や行政手続きに深刻な影響を及ぼし、説明責任や監査対応が発生します。この構造自体が、全面刷新を極めて高リスクな選択肢にしています。


2. 制度知・業務知がシステムそのものに埋め込まれている

レガシーシステムには:

  • 長年の制度運用の判断
  • 例外処理や現場対応の積み重ね
  • 法解釈の実装結果

がコードとして蓄積されています。これらは文書化されていないことも多く、システムを作り直すことは、制度知を失うリスクを伴います。


3. 日本の調達・予算制度とソフトウェア開発は本質的に相性が悪い

日本の行政調達では一般的に:

  • 仕様を事前に確定する必要がある
  • 複数年度契約になりやすい
  • 途中変更が困難

一方で、ソフトウェア開発は仮説検証と改善の連続です。このギャップが、刷新プロジェクトを初期段階から不安定にします。


4. 失敗の責任は可視化され、成功は当たり前と見なされる

行政においては:

  • 失敗は強く可視化される
  • 成功は評価されにくい

この非対称性が、大胆な意思決定を抑制し、結果として中途半端な設計や妥協を生みます。


5. Big-Bang型の切替はほぼ機能しない

一度に切り替えるということは:

  • 大規模データ移行
  • 全職員への同時教育
  • 複数部局の業務変更

を同時に行うことを意味します。日本の行政組織構造において、この同時達成は現実的ではありません。


では、何が機能するのか:全面刷新を避けたモダナイゼーション

参照アーキテクチャ:レガシーを維持したまま進化させる

flowchart TB
    Citizens["国民・事業者"]
    Channels["デジタルチャネル\n(Web / モバイル / ポータル)"]
    Gateway["APIゲートウェイ / 連携レイヤ"]
    Workflow["ワークフロー / ケース管理"]
    Data["共通データモデル\n(マスターデータ)"]
    Legacy["既存基幹システム\n(メインフレーム / ERP / 登録系)"]

    Citizens --> Channels
    Channels --> Gateway
    Gateway --> Workflow
    Workflow --> Data
    Data --> Legacy

    Gateway --> Legacy

この構成により、日本の行政機関は既存システムの安定性と監査性を維持したまま、新しいデジタルサービスを段階的に追加できます。


基本原則:止めずに進化させる

選択肢は「刷新」か「現状維持」ではありません。

止めずに進化させることが現実解です。


1. コアを作り直さず、デジタルレイヤを追加する

行政機関は:

  • 既存基幹を稼働させ続け
  • その上に連携レイヤを構築し
  • APIとして外部に提供する

ことで、リスクを抑えながら新規開発が可能になります。

重要な考え方: 内部実装を変える前に、接続の仕方を変える


2. 年度予算に合わせた段階的な置き換え

新機能は:

  • 既存システムの外側で実装し
  • 徐々に処理を移管し
  • モジュール単位で更新する

これにより、学習と改善をプロジェクト期間中に行えます。


3. UIよりも先にデータ標準化を行う

画面は変わりますが、データは残ります。

  • 共通データ定義
  • マスタデータの責任所在
  • 一貫した検証ルール

が、長期的な進化を支えます。


4. レガシーを「問題」ではなく「サービス」として扱う

既存システムは:

  • ラップされ
  • 境界を明確にされ
  • 監視され
  • 徐々に簡素化される

ことで、エコシステムの一部として機能します。


日本のGovTechにおける現実的な目標

目指すべきは:

「すべてを新しくすること」

ではなく:

「変化に耐えられる構造を作ること」

です。

そのようなシステムは:

  • 古い要素の共存を許容し
  • 新しい価値を安全に追加でき
  • 特定ベンダー依存を下げ
  • 政権・組織変更を乗り越えます

結論

レガシーシステムは敵ではありません。それは日本の行政運営の歴史と制度知の集合体です。

日本で成功するGovTechは、この現実を尊重し、法制度・調達慣行・組織文化に沿った形で、アーキテクチャと連携を軸に段階的な変化を進めます。

全面刷新は目立ちます。

しかし、進化可能な構造こそが実際に機能するのです。


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