MES・ERP・SCADA の違いとは? ― 製造業における役割と境界を分かりやすく解説
日本の製造業では、ERP、設備制御システム、現場の可視化ツールなど、さまざまなITシステムが導入されています。
しかし実際には、次のような課題を抱える工場も少なくありません。
- 生産実績と計画データが一致しない
- 現場では Excel や手書き帳票が残っている
- 経営層がリアルタイムで状況を把握できない
- IT部門と製造現場の認識が噛み合わない
その原因の多くは、ERP・MES・SCADA の役割と境界が正しく理解されていないことにあります。
本記事では、日本の製造現場を前提に、
各システムの役割・責任範囲・接続関係を整理して解説します。
1. 各システムが答える「問い」
| システム | 答える問い |
|---|---|
| ERP | 何を・いつ・どれだけ生産すべきか |
| MES | 今、現場で何が起きているか |
| SCADA | 機械はこの瞬間どう動いているか |
これらは競合するシステムではなく、
時間軸と責任範囲が異なる補完関係にあります。
2. ERP:経営・計画レベルの中枢システム
ERP(Enterprise Resource Planning) は、企業全体を管理するためのシステムです。
ERP の主な役割
- 生産計画・需要計画
- MRP(資材所要量計画)
- 在庫・購買・販売管理
- 原価計算・会計・経営レポート
ERP の特性
- 時間軸:日・週・月
- データ粒度:集計データ
- 主な利用者:経営層、計画部門
ERP は 「計画」と「結果の集計」 には強い一方、
現場のリアルタイム実行管理には向いていません。
3. SCADA:設備・制御レベルのリアルタイム監視
SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition) は、
設備やプロセスをリアルタイムに監視・制御するシステムです。
SCADA の主な役割
- センサー・PLC からの信号取得
- アラーム監視
- 設備状態の可視化
- 制御指令の送信
SCADA の限界
- 生産指示やオーダー情報は持たない
- ロット・製品・顧客の概念がない
- 経営指標の算出は不可
SCADA は 「機械の状態」 を知っていますが、
「その作業が何の製品か」 は知りません。
4. MES:計画と現場をつなぐ中核システム
MES(Manufacturing Execution System) は、ERP と SCADA の中間に位置します。
MES の主な役割
- 生産指示の実行管理
- 進捗(WIP)の可視化
- 品質データ・トレーサビリティ管理
- OEE・停止要因の分析
- 作業指示・実績収集
MES は次の問いに答えます。
「生産は計画通り、正しく、効率的に実行されているか?」
5. ERP・MES・SCADA の接続関係(概念図)
flowchart TD
ERP["ERP<br/>経営・生産計画"]
MES["MES<br/>製造実行管理"]
SCADA["SCADA<br/>設備監視"]
PLC["PLC"]
MACHINE["設備・機械"]
ERP -->|"生産指示・BOM"| MES
MES -->|"実績・数量・不良"| ERP
MES -->|"作業文脈"| SCADA
SCADA -->|"設備状態"| MES
SCADA --> PLC
PLC --> MACHINE
MACHINE --> PLC
重要なポイント
ERP が直接設備を制御することはなく、
SCADA が生産計画を判断することもありません。
MES が翻訳・調整役を担います。
6. ISA-95 に基づく標準構造
flowchart TB
L4["Level 4<br/>ERP<br/>経営・計画"]
L3["Level 3<br/>MES<br/>製造オペレーション"]
L2["Level 2<br/>SCADA / HMI"]
L1["Level 1<br/>PLC"]
L0["Level 0<br/>物理プロセス"]
L4 --> L3
L3 --> L4
L3 --> L2
L2 --> L3
L2 --> L1
L1 --> L0
ISA-95 は、
「なぜ MES を省略してはいけないのか」 を明確に定義しています。
7. 役割の整理(一覧)
| 項目 | ERP | MES | SCADA |
|---|---|---|---|
| 主目的 | 計画・経営 | 実行・可視化 | 制御 |
| 時間軸 | 中長期 | 短期 | 即時 |
| リアルタイム | × | △ | ○ |
| 設備制御 | × | 限定的 | ○ |
| 経営レポート | ○ | 一部 | × |
8. 日本の製造現場で多い誤解
-
ERP をカスタマイズすれば MES になる
→ 保守性とコストが悪化しやすい -
SCADA があれば生産管理できる
→ 文脈(製品・工程・品質)が不足 -
MES は大企業向け
→ 中堅・中小工場ほど効果が大きい
9. まとめ
- ERP:計画と経営判断
- MES:製造実行と現場可視化
- SCADA:設備制御とリアルタイム監視
それぞれの役割を明確に分け、正しく連携させることで、
日本の製造業は 品質・生産性・トレーサビリティ を同時に高めることができます。
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